いまや男女問わず大人気となったリンパマッサージは、いったいどのようにして生まれたのでしょう?
産みの親と言える4人の父を中心に、リンパマッサージの歴史を見てみましょう!
リンパマッサージ4人の父
- ヒポクラテス
- アンボワーズ・パレ
- パー・ヘンリック・リング
- エミール・ヴォッダー
1:医学の父ヒポクラテス
存命 | 紀元前460年頃~紀元前370年頃 |
享年 | 90歳(諸説あり) |
生誕 | ギリシャのコス島 |
時代 | ペロポネソス戦争(紀元前431年 – 紀元前404年) アテナイを中心とするデロス同盟vsスパルタを中心とするペロポネソス同盟。アテナイ敗北。 |
名言 | 人生は短く、術のみちは長い |
敬称 | 「医学の父」 |
功績 | 医術を迷信から切り離し、経験科学としての医学を発展させ、職業としての医師を確立 |
ヒポクラテスの誓い(抜粋)
- 純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、わが術を行う。
- いかなる患家を訪れる時もそれはただ病者を益するためであり、あらゆる勝手な戯れや堕落の行いを避ける。女と男、自由人と奴隷の違いを考慮しない。
- 医に関すると否とにかかわらず他人の生活について秘密を守る。
- この誓いを守りつづける限り、私は、いつも医術の実施を楽しみつつ生きてすべての人から尊敬されるであろう。もしこの誓いを破るならばその反対の運命をたまわりたい。
「ヒポクラテスの誓い」は、今でも医療倫理の根幹を成しています。医学部を卒業するときにこの「誓い」を立てることも多く、現在、北米のほぼ全ての医学校の卒業式でこの宣誓文が誓われています。
「ヒポクラテスの誓い」を、現代的な言葉で表したのが、WMA(世界医師会)のジュネーブ宣言(1948年)です。
ジュネーブ宣言
医師として、生涯かけて、人類への奉仕の為にささげる、師に対して尊敬と感謝の気持ちを持ち続ける、良心と尊厳をもって医療に従事する、患者の健康を最優先のこととする、患者の秘密を厳守する、同僚の医師を兄弟とみなす、そして力の及ぶ限り、医師という職業の名誉と高潔な伝統を守り続けることを誓う。
2:アンボワーズ・パレ
名前 | Ambroise Paré |
存命 | 1510年~1590年12月20日 |
享年 | 80歳 |
生誕 | フランス |
時代 | カンブレー同盟戦争(1508~1516年) イタリア戦争(1521~1559年) ユグノー戦争(1562~1598年) |
名言 | 我包帯す、神、癒し賜う |
敬称 | 「優しい外科医」「近代外科の祖」 |
功績 | 近代外科の発展 |
身分の低い床屋医者出身
「床屋医者」とは、床屋の生業とともに、傷の手当(外科処置)を行う職業のことです。
パレは身分の低い床屋医者であり医師ではありませんでした。当時の医者とは内科医を指し、床屋医者は一段劣ると考えられていたのです。
その中で、床屋医者として外科技術の発展に多大な功績を残し、その地位を高め、1562年にフランス国王シャルル9世の筆頭外科医として任命されます。
優しい外科医
パレは医学史家から「優しい外科医」という評価を得ています。その理由は、焼灼止血法のような侵襲性の高い治療法から血管結紮法のような侵襲性の低い治療法に切り替えたこと、患者一人一人に対して愛護的な態度で接したことにあります。
病床にあったシャルル9世との会話でシャルル9世に「哀れな患者よりもっと良い手当をしてくれ」と言われ、パレは「それはできません。すべての病み人に国王と同じ手当をしているからです」と答えたという逸話も残っています。
3:パー・ヘンリック・リング
名前 | Pehr Henrik Ling |
存命 | 1776,11,15~1839年5月3日 |
享年 | 62歳 |
生誕 | スウェーデンのユングビュー |
時代 | 第一次ロシア・スウェーデン戦争(1788~1790年) ナポレオン戦争(1803~1815年) 第二次ロシア・スウェーデン戦争(1808~1809年) |
敬称 | 「近代オイルマッサージの原点」 |
功績 | スウェーデン体操の創始者であり、スウェディッシュマッサージの創始者 |
スウェーデン体操
スウェーデン体操は、国民の体力養成を目的として、パー・ヘンリック・リングによって創始された徒手体操で「世界三大体操」のひとつです。(オリンピックの器械体操とかはドイツ体操。柔軟性を目的とした体操はデンマーク体操。)
スウェーデン体操は、第2次世界大戦前に,軍事予備教育としての役割が評価され,世界約40ヵ国以上で導入,実践されました。リングの死後60年を経た明治35(1902)年に日本にも伝わります。
第二次大戦後、スウェーデン体操は行われなくなります。戦後、30年の空白の後、再びスウェーデン体操を復活させようとしたのですが、適切な指導者の減少や、科学的体操だがおもしろみが少ない等の理由から、スウェーデン体操は廃れていきました。
肋木(ろくぼく)とは?
学校の体育館の脇の方に、木のはしごみたいな物のがあったと思います。あれは、スウェーデン体操で使う「肋木(ろくぼく)」というものです。体育館の肋木を思い出すと、身近なところでスウェーデン体操との繋がりを感じることができるのです。
スウェディッシュマッサージ
スウェディッシュマッサージは、「戦争で疲弊した全ての国民を元気づけるために」という国王の命をうけ、リングにより考案されたマッサージテクニックです。
リング自身の専門分野でもあった、保健体操、解剖学や生理学の知識を基に、開発されたスウェディッシュマッサージは、のちに世界各国のマッサージ専門家や、医師からも注目を集め、その後「スポーツマッサージ」「リンパマッサージ」「アロママッサージ」などの近代オイルマッサージの原点として、欧米を中心に世界中に広がりました。
スウェディッシュマッサージの特徴
スウェディッシュマッサージは人体の作りに基づき筋肉にアプローチし、リンパや静脈といった循環器系にも働きかけるオイルマッサージです。
ごく少量のオイルを使用し、 指圧のように”点”でとらえるのではなく、手の平などの”面”でとらえるので、「効く~」といった東洋系の刺激と異なり、比較的柔らかく滑らかな動きを特徴とします。
さらに、スウェディッシュマッサージは、受け手が健康になるのはもちろん、施術者も健康になるためのマッサージでもあります。マッサージの体勢は、フェンシング姿勢と乗馬姿勢で行います。この体勢は、スウェデッシュマッサージ施術者への体の負担が少なく、受ける側にも圧が伝わりやすい体勢なのです。
スウェディッシュマッサージについて、簡潔に説明した後で、6つの手技+αを実演を通してご紹介させていただきました!その他の動画はこちら ≫滑らかな手つき、リズミカルな動きは、『世界一気持ちいいマッサージ』と言われ[…]
4:エミール・ヴォッダー
名前 | Emil Vodder |
存命 | 1896,2,20~1986年2月17日 |
享年 | 89歳 |
生誕 | デンマークのコペンハーゲン |
時代 | 第一次世界大戦(1914~1918年) 第二次世界大戦(1939~1945年) |
敬称 | 「リンパドレナージュの父」 |
功績 | リンパドレナージュの開発 |
リンパマッサージの誕生
エミール・ヴォッダーは元々は、理学療法士でした。
ある時、ヴォッダーが、鼻炎に悩む患者が訪れた際に、首周辺のリンパ節が腫れていることに気づき、マッサージしたことろ、症状が軽減されたのです。
当時は1930年代、医学界においてリンパ系の研究はタブーとされている中、ヴォッダーは、1932年にリンパ系を研究し始め、停滞しているリンパ液を排出(ドレナージュ)する技法を開発しました。
そして、妻のDr. Estrid Vodder(エストリッド)とともに、「リンパ学」と呼ばれる医学の専門分野を開拓しました。
ヴォッダー博士の手技は、正確には、「ヴォッダー式マニュアルリンパドレナージュ」と言います。この手法は、現在でも変わらない形で教えられ、医療、エステ、リラクゼーション業界などで用いられています。
4種類のリンパドレナージュ
現在、主流といわれているMLDは以下の4種類です。
※徒手によるリンパマッサージのことを、MLDともいいます。(Manual Lymph Drainage/マニュアルリンパドレナージュ)
- ヴォッダー式
- フェルディ式
- ルデュック式
- DVTM式
1.Vodder式(ヴォッダー式)
- 1930年代/デンマーク発祥
- 風邪の治療として始めた
- エステ・整形外科・術後ケア・リンパ浮腫・各種浮腫など
2.Földi式(フェルディ式)
- 1960年代/ドイツ発祥
- 手技としてはヴォッダー式を応用
- 脂肪浮腫やリンパ浮腫の治療など
3.Leduc式(ルディック式)
- 1980年代/ベルギー発祥
- 解剖や生理学を根拠に体系付けられた手法
- ヨーロッパの理学療法士の必須項目
4.DVTM式
Dynamisation Vaaculo-Tissulaire Masuelle
- 1980年代後半/フランス発祥
- フランスのジャック・ド・ミカ氏
- 従来行われてきた表在リンパの深部にある静脈にも作用
それ以前に。医療リンパドレナージュは、複合理学療法の一手法としての位置づけなの。つまり、ヨガなどの運動や、スキンケア、外科治療、リラクゼーション、食事療法、バンテージなど、様々な組み合わせの中での、手技によるリンパマッサージの位置づけを意識することが、手技以上に一番大切なのです。
あと、先生、さっき少し言ってた、アーユルヴェーダとか、バリニーズとか他に何があるのですか?
命がけの時代を生き、未来を切り開いてきた先人達を見習い、私達も頑張りましょう。
まとめ
今より、はるかに過酷な時代に、タブーを恐れず、信念を貫いた先人の偉大さに、熱くなりますね。
いずれにの分野にしてもそうなのかもしれませんが、何か新しいことを切り開くときの周囲の抵抗は想像を絶するものでしょう。
普通なら、回りの目を気にしたり、今の常識にとらわれてしまうはずです。
彼らの、天性と情熱を忘れずにいたいですね☆
リンパマッサージのことを知りたい方へ
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